コロナ 戦いから共存へ

 長引く新型コロナウイルス対策の様々な自粛によって、職場にも家庭にも閉塞感が漂いますが、ここが頑張りどころと気を引き締める毎日を送られる皆様を思い、当館も再開の準備を整えています。
 さて過日、小学低学年の二人の孫に連れられ、北国の遅い桜の咲き誇る然別川のほとりを歩いた時のことです。浅瀬のたまりに無数のエゾアカガエルの卵が水面からこんもりと盛り上がりを見せていました。ゼリー層に包まれた卵には黒い一ミリほどの核があり、中には細長く変態を始めてうごめく個体も確認できます。瞳を輝かせて眺めたり手ですくったりする幼子の初めての体験は、数日ごとに観察をすることで生き物の生態が理解できる格好の生きた学習材料ともなりました。
 コロナウイルスに怯える人間社会を他所に、また今年も春の訪れと共に自然界の生への営みは始まっていました。野鳥・蛇などの外敵と闘い、農薬などに苦しみながらも種の保存のために限られた環境を求めて生きる小さくも力強い自然界の生き物を再確認した時間でした。
 一方でコロナウイルス騒動の中、この小さな生き物に比べて人間はなんと非力なのだろうと感じてしまいます。と同時に、自らの力のみで生き抜く姿から学ぶこと大なのです。
 このところコロナと社会の関係性について、「コロナと戦う社会」から「コロナと共存する社会へ」と表現する人が出ています。誠に的を射た表現と思います。言わずもがなですが、一般家庭でコロナから身を守る術は、独り外敵から身を守るエゾアカガエルのように、個々人の生活環境を確認し、生活習慣を見直す不断の工夫にあると思います。
 対策の最前線で奮闘される皆様方に感謝しつつ、近い将来「コロナと共存する新たな平穏の社会」が必ず訪れると信じて、当館スタッフも新たな対策スタイルを準備し、ともに頑張る所存です。
 皆様方と美術館でお会いできる日を切に待ち望む毎日です。

 神田日勝記念美術館館長  小 林  潤