アートカード

 相も変わらず荒天に悩まされる日本列島。ご多分に洩れず神田日勝記念美術館では今年の冬も大雪の度に除雪作業が職員を待ち受けた。職員一人ひとりが幅の広い除雪道具を繰って悪戦苦闘の日々が続いた。幅4m、長さ50mのアプローチは、鹿追町産の粘土を焼き上げたレンガ敷きの風情が美術館に向かう入館者の皆さんに好評だが、雪の季節には景観も一変し、油断をするとツルツル路面に足を取られることにもなり、事故の無いよう願う毎日を過ごした。が、さすがに彼岸を過ぎると足早に春の足音が聞こえている。
 さて、この度念願の神田日勝記念美術館監修のアートカードが出来上がった。ご承知のとおりアートカードはアメリカ生まれの美術鑑賞教育の手法として活用されているが、トランプに似たゲーム感覚で楽しみながら作品に親しみ、作品の細部を見る習慣が身につくもの。また、参加者のコミュニケーション能力を高めたり言語能力を高めたりするツールとして活用効果が高いとされている。
 昨年夏から準備を進めてきたが全て手作業で、日勝作品の中からカード候補を選ぶのは学芸員。レイアウト・プリント作業など様々な行程は職員が分担し、学校等への紹介と営業は館長が。今回は試作品として1セットを作ったもので、既存の日勝作品ポストカードを中心に活用し全65枚で構成した。今後、当館や町内小中高等学校で美術鑑賞教育への活用や、町民皆さんに作品を身近に感じていただき、美術館と鑑賞者を繋ぐツールとしても活用を考えている。
 早速上幌内小学校では全校生徒が廊下に並べて、作品制作年代ごとに作風の変遷を鑑賞するなど、児童たちの感性には驚かされる。鹿追中学校では美術の時間に卒業前の3年生がそれぞれのカードの特徴を短文にまとめた。後日短文はカルタの読み札となり、絵札となるカードを取り合う。表現能力と感性を育てる授業だが、教室は沸きあがり、活用する先生の企画力にも感心させられた。
 個人の名を冠する小美術館として地域に根ざした活動への小さな一歩。神田日勝作品アートカードもその歩みのエネルギーとなれるか否かは、これからのアプローチの仕方次第であろう。今後徐々にセット数を増やして様々な活用法を見出しながら、利用者のご要望にお答えしていきたいと考えている。

 神田日勝記念美術館館長  小 林  潤