令和に躍動あれ神田日勝

 戦争と復興・高度経済成長の昭和の時代が過ぎ、穏やかな世を願う中に未曾有のいくつもの大災害が押し寄せた平成が幕を降ろします。
 神田日勝は昭和の戦後開拓の時代を鹿追町に生き、短い生涯の中で数々の作品を残しました。昭和の時代に幕を閉じた日勝の生涯でしたが、平成に入り、彼の作品が多くのファンと関係者の尽力により美術館が建設され、次の元号「令和」になろうとする今現在も作品展示により復活し生き続けています。というよりもここに来てその人物造形がモチーフとされる山田天陽(配役:吉沢亮さん)が登場するNHKの朝ドラ「なつぞら」の放映で、これまで以上に全国の注目を集める画家となっていることはこれまでも書きました。

 日勝は亡くなる前年の31歳(昭和44年)の頃、地元紙に「生命の痕跡」という次のような文章(抜粋)を寄稿しています。
 「利潤の追求と合理主義の徹底という現代社会の流れの中で人間が真に主体性のある生き方をすることは、きわめて難しい時代になってきた。(中略)
あの白いキャンバスは己れの心の内側をのぞきこむ場所であり、己れの卑小さを気づき絶望に打ちひしがれる場所でもあるのだ。だから私にとってキャンバスは、絶望的に広く、不気味なまでに深い不思議な空間に思えてならない。私はこの不思議な空間を通して、社会の実態を見つめ、人間の本質を考え、己れの俗悪さを分析してゆきたい。
 己れの卑小さをトコトン知るところから、われわれの創造行為は出発するのだ。あの真っ白なキャンバスの上にたしかな生命の痕跡を残したい。」

 昭和の時代に生きた日勝は、今、朝ドラの中で放映されているような開拓農家の厳しい現実の生活と向き合いながら、社会を見つめその大きなうねりの中で、自己を見つめ、卑小である自分がせめて創造活動の中で生きた証を遺そうと短文にしたため油彩画作品を描き続けたのです。当館の作品の前に立つ入館者の皆さんには、元号が代わろうとも不易なものとして、人として生きることへの日勝の執念が感じていただけている(私の勝手な想像ですが)。そう思うだけで昭和に生き、平成に育てられ、令和の時代に三度躍動しようとする日勝の姿が浮かび上がります。
 一人の小さな力の限界を知りつつ、権威主義に迎合することを嫌い、ひたむきに自らを主張する生き方を貫き、「真っ白なキャンバスに自らの生命の痕跡を残した」日勝が、令和の時代も皆様の心の中に生き続けてくれることを願うこの頃です。

 神田日勝記念美術館館長  小 林  潤