60万人のご来館に感謝
北海道の内陸、東京からでは1,200㎞も離れた寒村鹿追町に建つ神田日勝記念美術館。日勝が生きたころは蒸気機関車と青函連絡船を乗り継ぎ24時間以上かかった道のりも、今では羽田空港から飛行機とレンタカーで所要時間2時間30分強。札幌市からでも高規格道路を利用すれば同じく2時間30分でたどり着きます。開館から28年が過ぎた今月、60万人目のご来客をお迎えすることができました。
節目のお客様となられたのは愛知県からのご夫婦。北海道旅行と称して富良野やトマムを巡り鹿追町にお運びいただきました。「貴館のことはNHKの日曜美術館を視聴して知り、今回の旅程に入れました。一昨年のドラマ「なつぞら」も印象が深いです。実物の作品の迫力に感激しました。」とご主人。花が咲き誇る富良野を満喫し、見事な雲海に巡り合えたトマムに加えて、美術館で記念品の贈呈を受けるサプライズ。「なんとラッキーな旅でしょう。」と笑顔満面の奥様。このご縁を大切に、そして心からお二人の旅路の無事をお祈りしお見送りしました。
当館にとっては平穏の日常を手繰り寄せる最中の嬉しいひとときでしたが、他方国内では、コロナ禍にあっても間もなく開幕するオリンピック・パラリンピック。対応には、観客・人流・ワクチン接種・経済対策など多方面で苦渋の選択をせまられる大会組織委員会・政府。日常の行動が著しく制限され続け疲労の色濃い国民は、今一つ盛り上がることさえできないでいます。はじけることのできないもどかしさをどこかで発散したいとの思いも強いでしょう。きっと、オリンピックもやるのなら成功をとの願いを持ち合わせている人々も多いはず。
国をあげての大イベントとは比較になりませんが、飲食を伴わず3密を避けられる当館は他館同様に開館が認められており、こんな時だからこそと安心・安全の芸術鑑賞施設にご来館されるお客様たちを静かにお迎えしています。今後ワクチン接種率も高まると予測される中で、少しずつ増えていただけるであろうお客様に期待を寄せながら…。
神田日勝記念美術館館長 小 林 潤