ふるさと
2021年9月1日、鹿追町開町100年記念式展が執行されました。迫りくるコロナウイルス禍に一年延期を余儀なくされての式展でした。式典会場に隣接するホールには100年前から現在までのわが町の姿が数百枚の写真によってあらわされました。食い入るように見つめる人々の中に、今は東京やその近県にお住まいの方々の一行がありました。鹿追町のふるさと会「東京鹿追会」の面々です。
70歳から80歳前後の方が多く、その昔住んでいた地区の写真に覚えのある人を探したり、通りの風情を懐かしんだりと思い思いの時間を過ごしています。「町は見違えるほどに変わったなー」との言葉の裏には「昔の面影が無くなってしまったなー」との寂しさもあるのでしょう。ひとりひとりの以前の居場所を探し求める行為は、青春時代をそこに生きた証を再確認するためであり、生きた道のりを思い起こす切ない時間なのかも知れません。
時代の波をとらえながら、限りない発展をと力を傾注する地元の人々。やがて基盤整備が進み、国内有数の大規模農業推進、市街地は近代化事業などで明るく洗練された街並みに姿を変え、新しい時代の街が形成されてきました。同時にそれはそれまでの風情が失われていくという現実をも受け止めねばならないことも意味します。
式典後に東京鹿追会の皆さんが当館に足を運ばれました。ここに来ると時が経ってもなおその時代を生きた画家の思いが凝縮された作品と出会い、郷愁にかられる方も…。館内を堪能した後、さらに館を出て遥か北の大地を見渡せば、大雪山連邦の一角を成す町の象徴である「夫婦山(西ヌプカウシヌプリ山と東ヌプカウシヌプリ山)」が聳え、昔を偲ぶ人々の、そして全国各地からご来館される方々の思いを包み込んでくれます。
澄み切った青空には純白の筋が引かれ、変哲もない野辺の草花にさえ愛おしさを覚える中秋の風情、緊急事態宣言も解ける状況も見えはじめ、普通の日常にお客様を迎えられる喜びの時を待つふるさと鹿追、そして神田日勝記念美術館です。
神田日勝記念美術館館長 小 林 潤