ウインターコンサート
想定数を上回るほどの観客が集う鹿追町民ホールに総勢70名による軽快な音楽が響き渡りました。鹿追町内小中高生と北海道教育大学釧路校交響吹奏楽団団員による大合奏です。道立鹿追高校と教育大学釧路校との連携による合同演奏に端を発し、小中高一貫教育を推し進める鹿追町内小中学校の児童生徒も加わる形で年に一度、今年16回目のウインターコンサートで内実が図られてきています。
コロナ禍前であれば学生たちは、コンサート前日から大型バスで前乗りし鹿追町内青少年の活動拠点「ピュアモルトクラブハウス」に宿をとり、事前に練習を重ねてきている児童生徒を対象にパートごとの演奏指導を行ってきました。今年は当日の早朝に釧路発、午前中からパート練習やリハーサルをこなし、本番に備えました。
大学4年生になる学生たちにとっては4年間の厳しい練習の末の定期演奏会、北海道吹奏楽コンクール出場などを経験し、このウインターコンサートが公的には最後の演奏会となり、おのずと子供たちへの指導にも熱が入ります。
12月の午後の鹿追はさすがに肌を刺すような寒さを感じますが、開演40分前頃から続々と観客が詰めかけます。ほどなくウェルカム演奏が始まり、5、6人の大学生グループが代わるがわるの演奏で観客を迎えます。
静まり返った会場に開演のアナウンスが流れ地元小中高生による演奏で幕が開き、緊張気味ながら息の合った演奏が会場を包みます。やがてステージが変わり大学生も加わり一段と迫力を増す演奏。満場の観客の視線を浴びながら、普段、洗練された生演奏に接することの少ない児童生徒にとって、シャワーのように全身に降り注ぐ音の世界は、この後の彼らの人生に忘れえぬ時間として記憶されることでしょう。
コンサートの後半には軽快な曲に乗って観客の手拍子も場を盛り上げ、演奏にも一段と熱がこもります。ステージと会場が一体感に包まれた頃、学生たちの瞳に溢れる涙を感じたのは私だけではないでしょう。厳寒の十勝鹿追町に、音楽を通した心の交流が広がり温かく肌に伝わってくるようです。
コロナ禍を乗り越えての演奏会は成功裡に幕を閉じました。
芸術文化活動も軒並み自粛を余儀なくされたこの2年間でしたが、今思うのは、文化芸術は平穏時にのみ享受が許されるものではないということ。閉塞感の中に生きる人々が足りないものはと自問すると、そこには心のゆとりを再起させてくれる芸術文化を求める自分たちがいることに気が付くのです。
コロナ禍に悩まされてきた2年間の教訓としてこのような非常時にこそ人には文化は必要であり、演奏会や当館を含め芸術文化施設の活動の在り方や存在意義を再認識しなければならないと受け止めています。
お世話になりましたこの一年を振り返り感謝申し上げますと同時に、皆様にとって新たな年が、真に明るく輝く一年でありますように心からお祈りしています。
神田日勝記念美術館館長 小 林 潤