躍動する十勝の美術作家展と十勝水彩作家展

 美術館の庭に聳え立つ柏の大木が来館者の目を楽しませています。薄茶色に染められた葉が風に揺れ、早朝の陽光に眩しく輝いています。庭を散歩するいつものエゾリスも心なしか忙しそうに走り回り、北国の厳しい冬が近いことを知らせています。

 昭和20年8月、日勝家族が鹿追町笹川の地に入植しました。与えられた土地には柏など開拓者にとっては厄介者の大木の切り株が無数にあり、馬とともに一つの切り株を一日がかりで伐根するとその面積が畑になるという劣悪な条件下での開拓でした。

 中学を卒業した日勝は独学で油彩画の技法を会得し、地元の平原社展はもとより全道展・独立展にも挑戦し広く画壇に名が浸透していきます。一方では、十勝の地に芸術文化の活動を広げたいとの強い思いで全道展(移動展)の成功に向けて東奔西走もした日勝でした。

 日勝が逝って50年後の2020年、馬耕から巨大なトラクターに、雑木林は肥沃な畑に変貌を遂げた中で、「神田日勝没後50周年記念 躍動する十勝の美術作家展が当館で開催されました。十勝の作家の皆さんで組織する実行委員会が主管となり、出品作家の推薦から作品搬入搬出・展示作業、多くの人々へのダイレクトメッセージの配布まで実行されたのです。4,000名を超す来館者に十勝の作家のメッセージが伝わる時間でありました。

 第1回展から3年の月日が流れた今年11月1日から12月10日まで、再び当館において同作家展の開催が実現しました。広大な十勝の市町村から作家が集い、交流が生まれ多くの鑑賞者に感動が伝わり、生前日勝が希求した十勝の地に芸術活動のすそ野が広がる一歩になっています。

 さらに、11月8日からは当館に隣接する鹿追町民ホールにおいて、十勝水彩作家展が同時開催され、二つの展覧会が楽しめます。

 二つの展覧会が終わるころ、敷き詰められた柏の葉の上に白い便りが届く季節を迎えます。皆様のお早目のお越しをお待ちしています。

 

神田日勝記念美術館館長  小 林  潤