神田日勝記念美術館館長コラム

 今日は朝の内少しの時間でしたが、蝦夷春蝉(エゾハルゼミ)の賑やかな鳴き声が美術館を包み込んでいました。この鳴き声が鹿追町の夏の到来近しと教えてくれているのです。
 晴天に恵まれたゴールデンウィークから1か月。今は今年度の特別企画展「燃え上がる大地-神田日勝」を実施中です。1968年制作の「人と牛」シリーズや《晴れた日の風景》など、モチーフの大胆なデフォルメと眼に鮮やかな原色使い、そして豪快なタッチを特色とする日勝後年の作品に焦点をあて、新たな日勝像に迫っているものです。
入植初期の日勝の開拓時代から少しずつ開墾も進み、家庭を持ち子どもの成長を見つめながらの生活には以前にも増して心の張りが出てきていた頃でしょうが、それでも言葉には尽くせぬ猛威を振るう大自然との戦い、肉体労働と時間の制約の中、渾身の大作が年間にこれほどまでに数多く制作されていることには驚き以外の言葉が見つかりません。さらに個々の作品から溢れる躍動感に圧倒されますが、日勝が残した「結局どういう作品が生まれるかは、どういう生き方をするかにかかっている」との思いが強く滲み出ているものと感じます。今展は、日勝初期作品との比較鑑賞も楽しく、これまでの展示と違う空間にファンの皆様のご来館も多く、様々な感想が寄せられています。
 またこの時期、お隣の福原記念美術館では函館を拠点とされる画家鈴木秀明氏の作品展が行われており、当館の特別企画展と双方が鑑賞できる共通入館券のご利用者も増加傾向にあります。人口5600人の小さな町に二つの美術館が存在していますが、美術ファンにとって充実した時間を送っていただけるよう益々連携が必要と考えています。
 さて、6月の当館のイベントといえば、6月17日(土)18時30分から開催される、開館記念行事「蕪墾祭」があります。
 今年の出演は地元女性で構成する「そよ風コーラス」の皆さんの演奏です。今ではどこの美術館でもお馴染みの展示室内でのコンサートですが、当館がオープンした23年前のこと。某氏によればこの美術館の天井の構えは中世の教会の高い天井と類似点があり、残響は少し長いが空間が素晴らしいとの評価でした。合唱曲の原点はモノフォニー(単声)音楽のグレゴリオ聖歌であり、これが発展したのがポリフォニー(多声)ミサ曲等であるとのこと。このことからこの種の合唱の演奏には「日勝記念美術館」はもってこいの場所とのお墨付きもいただき、縁あって旭川混声合唱団の皆さんに第1回の演奏会を託することとなったのです。以来23回を数える蕪墾祭です。「音楽は空間の芸術」と言われますが、芸術作品に包まれた会場で多くのファンの皆さんと、今回は松里充氏が指揮する妙なる女性コーラスの演奏と、終了後は友の会皆さんの手料理でその味と心をお楽しみいただきたいと思います。

 神田日勝記念美術館館長  小 林  潤