展覧会余談

神田日勝と記念美術館にとって2011年は画期的な年であったといえます。
第一点は、積年の懸案であった首都圏での大規模な「神田日勝展」が実現したことです。9月から10月にかけてほぼひと月間横浜市根岸台の馬の博物館で開催された『北の大地から―馬と歩んだ画業~神田日勝』は、「馬」というテーマ設定のため色彩が溢れる後期の作品群こそ網羅されませんでしたが、画業を通観できる待望の企画でした。画家の生地練馬区立美術館での展覧会より十余年、幻の画家「神田日勝」が多くの人々に実見される好機となりました。企画を担当した同館学芸員の佐藤美保さんは,元来この種の美術展に不向きともいえる博物館の展示空間を代表作と素描・資料を巧みに織り交ぜて画家の魅力を引き出す構成で彩り、また会期中半に完売した図録は秀逸な日勝の啓蒙書として広く普及させたい一書でした。(ただこの期間神田日勝記念館に代表作がないことに落胆し受付で踵を返した来館者が予想をはるかに超えて相当程度いたことは驚きでした。)ただこの展覧会が日勝の画業の再認識に大きな一石を投じたことは疑いを入れません。
第二点は練馬区立美術館で神田日勝展を企画した土方明司さん(平塚市美術館館長代理)等の企画による『画家たちの二十歳の原点展』に神田日勝の「自画像」と「馬」が採用されたことです。これは日本の近現代美術を代表する54人の画家が二十歳の時代に描いた作品と著述文で構成する展覧会で、黒田清輝・岸田劉生・草間弥生・池田満寿夫という画家の一人に神田日勝が加えられた意義は大きなものがあります。この展覧会は平塚はもとより、下関・碧南(愛知)・足利を巡回し、併せて作品集が求龍堂から全国出版されました。土方さんの日勝への愛情の発露には深い感謝の念を覚えます。
最後は当館の「神田日勝が見つめたいのちの実相」展の開催です。前述の「馬の博物館」の展覧会で展示された北海道立近代美術館の「死馬」「室内風景」を含む6点の神田日勝作品を、近代美術館の全面改装のため当館で若干の期間お預かりすることになりました。この機会にそれらの作品を加えて展覧会を企画しました。両館の代表作の競演、作品の切り口と併せてご鑑賞いただきたいと思います。

菅訓章(神田日勝記念美術館長)