開館25周年を迎えて

 人口6,000人に満たない小さな町の美術館が誕生して25年の歳月が流れました。作家没(1970年)後間もなく行われた東京・鹿追での遺作展をはじめとして日勝を特集した文芸誌・評伝の刊行、以降各種展覧会の開催、そして何よりも地元有志はもとより広くファンの集う神田日勝記念館友の会の力強い発足により磐石な体制でスタートを切ることができたのは四半世紀前のことでした。
 「田園の中の弧峰ともいうべきたたずまいのこの記念館が着実に人を集めているのは、郷土への愛着を根に祈りをこめて彩管を揮った画家のひたむきな生きざまが、脚下照顧の昨今の精神文化見直しの欲求と共鳴するからだと私は考えています。」これは当館第2代館長(故)高橋揆一郎氏の就任二年目の寄稿の抜粋。まさしく足元を見つめ精神文化見直しの欲求が、友の会の皆さんの溢れんばかりの応援の形となってきました。
 また、当館第3代小檜山博館長(現名誉館長)は「小説も音楽も絵画も、わかるものではなく感じるものだと思う」と表現され、「ニューヨークのメトロポリタン、ロンドンのナショナルギャラリー、スペインのソフィア王妃美術センターなど多数の世界の美術館を巡り感じたことに、神田日勝の絵がこれら美術館にある絵と同格だということだった。そして鹿追の神田日勝記念美術館が絵の聖地であるのを感じた」と綴られました。没後50年が経とうとしている今でも、日勝作品からは見るものに強いメッセージが放たれているとの言葉をしばしば拝聴することがありますが、美術館への励ましの言葉と受け止め地域の文化活動推進の拠点たる動きを続ける覚悟を今新たにしています。
 過日(2018年7月6日付け)北海道新聞に《NHK朝ドラ100作目「なつぞら」十勝ロケ》についてが掲載されました。「(前略)…吉沢亮が演じる、なつ(広瀬すず)に絵心を教える青年・山田天陽の人物造形は、早世した鹿追町ゆかりの画家・神田日勝の生涯を参考にしたという。なつの人生を左右する重要な役柄で日勝ファンにも注目されそうだ。」と。(誠に心強い記事でした。)
 他にも、このところ美術関連冊子などに当館の掲載依頼が続いていることも含め、没後50年を間近に控えたこの時期に各方面から注目が集まることは時宜を得たことであり、さらに没後50年記念事業として2020年には東京都内・札幌市・鹿追町の各地において神田日勝巡回展実施の動きが加速していることもお知らせしておきます。(詳細は後日のお楽しみです。)
 オープン以来日勝作品の収集・保存・補修、作家研究、各種展覧会の開催や子ども対象事業などで日勝を知って頂き美術の鑑賞機会の充実を図ってきましたが、25周年の節目を機に、さらに皆様が足を向けたくなるような美術館を目指しますので、変わらぬご指導をお願い申し上げます。

 神田日勝記念美術館館長  小 林  潤