謹賀新年「扇が原展望」

 鹿追市街から然別湖に向かう道道85号の途中にあるビュースポット。基準標高857.9mにあり十勝平野が一望にでき防風林で仕切られた広い畑の風情が観光に訪れた人々を楽しませてくれます。平野の正面奥には遠く日高山脈が連なり、左手に目を移すと地平線が彼方にかすみ、よく晴れた日には太平洋の白波がキラリと光るそうです。かつては元旦のご来光を仰ぎに訪れる町民も複数いました。
 これが「扇ヶ原展望台」。
 扇ヶ原展望台から限りなく広がる十勝平野を臨み、新たな年も皆様にとって幸せ多き一年でありますようお祈り申し上げます。

 さて、今から57年前、神田日勝はこの展望台からの眺望を描きました。
 作品「扇ヶ原展望」です。
 日勝は大好きだった釣りや仲間との登山のためによくこの展望台を通りました(正確には日勝が通った道は旧道で、現在より少し低い位置にありました。)。かつてはでこぼこの砂利道で、知っている人は「ああ、あの「そろばん道路」な」といって懐かしがります。今、「そろばん道路」で知られているのは冬の圧雪路面にできる凸凹道が有名ですが、昔は夏も砂利の峠道にできていたもので、本当にそろばんの上を走っているようにハンドルがきしみ運転を誤ると側溝に飛び込みそうになることもしばしばでした。
 日勝は夏は自転車やバイクを使い冬はスキーで展望台を抜けて然別湖でオショロコマ釣りに興じたといわれています。(日勝の冬の釣りの情景は本人がしたためた「然別湖と釣り人たち」に詳しい。)
 その頃平原社展・全道展・独立展などで頭角を現していた日勝は、新企画の毎年のポスターの原画を描く作家を探していた帯広信用金庫の役員の目にとまり、向こう10年間のポスター原画を制作する契約を承諾しました。その第一作目の原画が「扇ヶ原展望」でした。
 雄大な十勝平野を一望するこの作品こそ信用金庫新規格の第1作目に相応しいとの評価だったのでしょう。十勝全域に配布された日勝の「扇ヶ原展望」はやがて帯広信用金庫の発展と共に名実ともに十勝を代表する作家と評されていくのです。

 神田日勝記念美術館館長  小 林  潤