博物館浴
近年「博物館浴」という言葉を耳にするようになりました。イギリス・カナダや日本でもその研究が進んでいます。「博物館浴」とは森林浴や海水浴と同様に、美術館・博物館・展覧会・ギャラリー・個展などの場で文化芸術を鑑賞することによって人々の健康保持増進がはかられるとの科学的証明がなされつつある考え方のことです。
イギリスで2019年に発表された論文によると、芸術が人に与える影響についての研究で2002年より14年間50歳以上の地域住民6000人を対象に追跡調査をしたところ、劇場・コンサート・オペラ会場・博物館・美術館・展覧会・ギャラリー等の文化芸術の場に頻繁に訪れる人々は、訪れない人々と比較して死亡率が優位に低いことが分かったということです。
九州産業大学緒方教授は「このことは文化芸術が人々の健康やメンタルヘルスを支える重要な役割りを果たしていることを示唆しています。」としこの数年国内各地で実践研究を進めています。
世界中を見えない恐怖で覆いつくした新型コロナウイルスが社会の日常を一変させた時、閉塞感に苛まれる人々が3密(密閉、密集、密接)を守りながら訪れた場所の一つに美術館や展覧会がありました。日本ではまだ「博物館浴」の言葉はあまり知られていない頃でしたが人々が心の欲するままに訪れたことには必然性があったようです。
翻って、北海道内の名だたる美術公募展では年を追うごとに減少傾向にある新規応募者の増加対策に苦慮していますが、博物館浴の研究が進み文化芸術が人々の健康や精神衛生に少なからず貢献していることがより広く周知されることで、来場者が増加し必然的に主催者も力が入り応募者側の意識にもなにがしかの良い影響が出てくるのではと勝手な推測が広がります。
食生活の欧米化が進んできたように日本国民の日常生活の中にも徐々に文化芸術をより広く楽しみ、博物館浴の意識が浸透することにより自然の流れで健康の増進が図られることになることを期待するこの頃です。
神田日勝記念美術館館長 小 林 潤