馬耕忌に書道ライブ
日勝の逝去記念の日が「馬耕忌」と命名提案されたのは、当館開館式が開催された日(1993年6月17日)の夜のことだったそうです。神田日勝記念館(当時)に押し寄せる全国からの日勝ファンが喜び鹿追町の文化の向上にも役立つ集いにしたいとの思いからでありました。(開館からの入館者は100日で50,000人を数えました。)
記念すべき第一回馬耕忌はNHK日曜美術館司会者の斎藤季夫氏を囲んでのトークショーでした。遺影に献花し画家仲間や物心両面で支えて下さった方々などゆかりの人々が発言するエピソードに会場が沸き日勝を偲ぶ時間が過ぎたのでした。以来、様々な文化人・作家・美術館関係者の対談・鼎談等で日勝を偲び、「小美術館のあり方」「美術館と街創り」などをテーマに美術館運営の根幹を見つめてきました。
近年はスタイルを変え基調講演とピアノコンサートや、吉沢亮氏・大森寿美男氏・磯智明氏を迎えてのプレミアムトークショー、はたまた日勝に纏わる朗読の会とヴァイオリンカルテットコンサートなど日勝作品に囲まれながらお話と音の芸術と言われる音楽とのコラボレーションで堅苦しくなく楽しみながら日勝を偲んでいただいてきました。
第32回となる今年はさらにスタイルを変えて、日勝に思いを馳せ日勝を偲ぶ時間として書道ライブが招聘されました。講師は道内各所で書家として書道ライブを展開している松岡一真(篤志)氏で、数年前よりご本人から当館にお話を頂いていました。しかし、これまでの馬耕忌とは大きく内容を異にするもので、当初、主催する友の会の会議の中では書とのコラボレーションはあまり馴染みが薄いので…と反応は今ひとつでした。
これまで日勝を偲び日勝とファンをつなぐ時間の演出として音楽ではクラシック・ジャズ・ポップス・合唱などの演奏、また講演・対談なども聴覚に訴えるものが主流でしたが、書道ライブは日勝を語りライブで聴覚と視覚の空間に人々を誘うものでしたので、斬新な企画といえるものであり関係者が躊躇するのも無理からぬことでした。
馬耕忌当日を迎え、書家本人はご自分を「戯人ISSHIN」と称し、日勝へのオマージュ書と語りの「日勝を書く」と題して始まったライブ。初めての書道ライブの試みはステージ上の萩の花に包まれた遺影と「『室内風景』のレプリカ」をバックに、BGMのジャズ・クラシック音楽が流れる中で進行していきます。書家の日勝研究に裏打ちされた語りと、圧巻はエピローグに差し掛かる頃のせせらぎ合唱団員による大地讃頌の大合唱を背に、全身からほとばしる熱気のままに繊細かつ大胆に進む筆の先に日勝の姿が浮かび上がる気さえ感じる時間となったのではないでしょうか。
会場を埋め尽くした来場者からは幾度も万雷の拍手が送られたのでした。
今回の書道ライブの成功は、日勝を表現する様々なジャンルへの取り組みの可能性を示唆しています。今後も国内各地におられる多くの日勝ファンの皆様・友の会の皆様からのご意見を拝聴しながら新たな活動に向けた取り組みを進めてまいります。
神田日勝記念美術館館長 小 林 潤
※神田日勝祈念美術館友の会通信「画室」Vol.65掲載