自治体DX
巷では、自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)なる言葉が出回っています。DXとは、デジタル技術を活用して産業や住民生活、行政の仕組みを変革することにあるのだそうですが、私のような老体にとっては変革への取り組み以前にデジタル化の受け入れにも相当の努力が必要なのであります。そもそも私の若かりし頃の今から50年ほど前までは電卓などは一般社会には出回っておらず、数字の確認は算盤(ソロバン)を使って手計算で、複数枚の印刷はろう引き原紙をガリ版に載せて文や数字を手書きし、インクを塗ったローラー・謄写版で刷り上げるといった、まさにガリ版印刷の時代でした。
そこから一気に時代は動きガリ版印刷からプリントゴッコなる家庭用小型印刷機器などが続々と登場し、時をほぼ同じくして最新鋭(でも画面は一行だけしか見えない)のワードプロセッサーなどが出回り、デジタル技術の進化と共に、コピー機やパソコンが登場し、情報化の進展もあいまって飛躍的に社会は変化していきます。
社会変化への対応は美術館も例外ではありません。各種データの整理保存は相当量がデジタル化され、ホームページの制作と同時に各種情報もインターネットを通して双方向での活用が進み、受付窓口もカード決済が可能になり入館者へのサービスも向上しつつあります。
しかし、冒頭の自治体DX実現に向けたハードルは低くありません。小さな例えですが、カード決済で処理された入館料やグッズの売り上げデータはパソコン内に蓄積されますが、データ管理の面で出納室との連携が難しく、収入調定一項目ごとに収入伝票に起票し仕分けして会計管理者に提出が必要なのです。出納室での役所全体からの収入調定の整理は膨大となっていても会計システムの連携の難しさからペーパーレス化が進まず、折角のカード決済も導入前よりも多くの紙の伝票を使った事後処理に追われる現場となっては本末転倒とも感じています。国の関係手順書を見ても「各自治体で手続きやシステムも含めて見直すことが重要である。」などとなっていますが、それに沿う見直しにはさらに大きな予算が必要なのです。このような現状を踏まえての打開策は打ち出されていませんが、官民連携と役所全体の取り組み方策の再見える化がスタートラインなのでしょう。
始めてみて分かりました。何事も始めてみなければ実態は掴めないものです。
当館の自治体DXへのアプローチは緒に就いたばかりです。
新年度を迎えるにあたり、今後も先進事例に学びつつ歩みを進める所存です。
神田日勝記念美術館館長 小 林 潤