『未完の馬』のいる風景プロジェクト
JR北海道札幌駅から乗車し、狩勝峠を抜け十勝平野を疾走する特急の車窓に十勝平野の大パノラマが飛び込んでくる。開拓の時代を乗り越え豊穣の沃野と化した7月下旬の十勝の畑に巨大なコンバインなどの農業機械が走り回る。収穫を終えた広大な小麦畑には小麦殻を円柱状に丸めた麦稈ロールが点在し、この季節にのみ出現するえも言われぬ圧巻のパノラマを楽しむことができるのです。
しかし、この風景も早ければ次の日には全ての麦稈ロールが酪農家に運ばれ、景色が一変してしまいます。つまり、偶然通りかかった人々のみがほんの一瞬の大きな感動を楽しめるという幻の風景なのです。
その景色に感動した当館友の会の一会員から、鹿追町にも毎年出現するこの大パノラマの感動をもっと多くの人々にも分けて差し上げたい。さらにこのパノラマに開拓の時代に神田日勝と共に生きた馬を畑のあちこちに数多く放った夢のような光景を写真で残し全国の北海道ファンにも届けたいとの発案があり、さっそく今年の夏、実行されることになりました。
その名も「『未完の馬』のいる風景プロジェクト」。
プロジェクトへの賛同者は地元鹿追高校教員(写真部顧問)・生徒たちや町内アマチュア写真家・ピュアモルトクラブ(町内青年活動組織)会員、主婦、カフェオーナー、農家の青年、当館友の会会員など若者から男女を問わず様々な年代・職種に広がりを見せています。
現在は撮影チームによる撮影する小麦畑の選定作業が進みつつあり、放たれる馬の原型は神田日勝の『未完の馬』が選ばれ、その実物大「馬のパネル」作成作業も精力的に進んでいます。今年の夏、北海道十勝鹿追町がどのような光景になり、どのようなアングル(空撮も考えられ)で撮影されますかは乞うご期待です。
撮影された写真は8月27日の神田日勝逝去記念イベント「馬耕忌」と9月24日の「鹿追町ふるさと産業まつり」会場に展示とともにウェブで広く配信されます。「鹿追町ふるさと産業まつり」では、隣接する当館芝生に麦稈ロールを積み上げ未完の馬と共に親子で遊べるスペースが誕生し撮影会も行われます。
きっと北海道の夏から秋の自然を楽しむ皆さんをはじめ、写真愛好家の皆さんにもお楽しみいただけるものと期待しているところです。
なお、このプロジェクトは当館開館30周年記念事業として取り組まれるものです。
神田日勝記念美術館館長 小 林 潤