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コラム

神田日勝の作品紹介(画業)

神田日勝の油彩作品は、一部の小品を除きその質感と手応えが気に入ったためか、 ベニヤが使用されペィンティングナイフを用いて描いたのが日勝の大きな特徴です。

1956年頃〜1963年頃

こげ茶色を多く用いて、生活に根ざしたものを克明に描き、ものの存在感を追求しました。 写実的に見たものをそのまま描くのではなく、対象をデフォルメして画面いっぱいに大きくとらえています。

馬

「馬」

1957年 油彩・ベニヤ(73.0×105.0)

中学を卒業した日勝は、営農に勤しむ傍ら油彩画の制作に励みました。 この作品は、同様の主題で平原社展に初出品・初入賞した「痩馬」に続いて発表され、最高賞である協会賞を受賞しました。 ここに描かれた馬は日勝と生活をともにした農耕馬であると思われ、その姿を通して戦後開拓生活の一端を偲ぶことができます。 これ以降日勝は生涯を通して馬を描きつづけました。

飯場の風景

「飯場の風景」

1963年 油彩・ベニヤ(138.2×183.5)

飯場で働く男たちを描いた作品。 手や足を大きく描くことで働く男たちの逞しさと、画面全体を支配する沈黙から過酷な労働に従事する者の束の間の休息が描かれています。 日勝には飯場体験はありませんが、開拓農民としての共通する境遇がそこに活写されています。

1964年頃〜1966年頃

この時期は、馬や牛の毛並みや壁の表面など、ものの質感を表現する克明描写の方法がより深化し、その存在感も強まっていきます。 一方で、空間表現は陰影や奥行きを排除し、ますます平板さを強め、見る者に迫ってくるような印象を与えます。

牛

「牛」

1964年 油彩・ベニヤ(144.0×144.0)

石床の上に敷かれた筵の上に、折り曲げられた足を鎖で縛られ腹を切り裂かれた牛が横たわる光景。 永遠の眠りについた牛の穏やかな表情とは対照的に、切り裂かれた赤い腹部の鮮烈さに目が惹かれます。 赤や青、白の色が部分的に取り入れられ、これ以降日勝作品に色彩が用いられるようになります。

死馬

「死馬」

1965年 油彩・ベニヤ(181.8×227.3) 北海道立近代美術館

冷たい石の床、丹念に克明に描かれた馬の体毛。 開拓生活とともに生きた農耕馬の死を悼む壮大なレクイエムということができるのかもしれない。 足を縛る鎖にも、死してまで自由になることのできない過酷な運命を投影しているようにも映ります。

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1966年頃〜1969年頃

赤や黄色、青や緑など最初は形に沿って塗られていた色も、流動的で激しい筆触へと大きく変貌してゆきます。
アンフォルメル(非具象)などの芸術運動の影響を受け多くの画家たちが具象を捨てて抽象への転向してゆく中で、 日勝はあくまでも具象表現にこだわりながら、新しい表現の可能性も模索しました。

画室A

「画室A」

1966年 油彩・ベニヤ(144.0×183.5)

1966年から翌年にかけて、日勝は「画室」の連作を描いています。 これはそのシリーズの第1作で、「牛」「死馬」などやそれ以前に見られる克明描写と暗褐色の色調は殆ど姿を消し、 赤、青、黄などの純色がふんだんに使われています。また画室の中の雑然とした風景が、簡略化されたフォルムで平面的に処理されています。 それまで意図的に抑えられていたと思われる"色彩"に対する欲求がこの時期から一気に溢れ出し、新たな創作意欲が日勝を駆り立てていると言えます。

画室C

「画室C」

1967年 油彩・ベニヤ(163.5×182.8)

画室シリーズはこの作品以降モチーフが中央に集められ、床と壁がピンク色に塗られポップなイメージのある作品に変わります。 床と壁を土台に、椅子や絵の具缶などがさまざまに配置され、それと同時に印刷されたコマーシャルの包装紙が登場します。

晴れた日の風景

「晴れた日の風景」

1968年 油彩・ベニヤ(182.5×183.5)

左官ゴテを改良して、「人と牛」の連作に代表されるように絵の具を厚塗りした作品を制作するようになります。 豊かな色彩と激しい筆触は、画法の大きな転換のようにも見えます。 モチーフは人と馬という従来のものですが、アンフォルメルの大きなうねりの中で、 日勝も画壇の潮流を敏感に反応していたのかもしれません。

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1968年頃〜1970年頃

色彩が豊かになり、流動的な筆触で描かれた作品の一方で、社会事象などを投影した作品が描かれました。 これらは、現代社会に生きる人間へのメッセージを含み、 社会の矛盾や問題を鋭く突いた傑作として神田日勝の代表作となった「室内風景」へとつながっていきます。

ヘイと人

「ヘイと人」

1969年 油彩・ベニヤ

アンフォルメルの画風と平行して、細密描写の作品が描かれている時代の代表作品です。 車や薬の広告で溢れる新聞や"ベトナム戦争"を暗示するポスターやヌードを描いたポスターがコラージュのように貼られています。 情報化社会や大量消費時代に、日勝が社会の事象と鋭く対峙していたことが伺えます。 情報が氾濫する現代社会に生きる私たちの生活を予見するような作品です。

室内風景

「室内風景」

1970年 油彩・ベニヤ(227.0×182.0) 北海道立近代美術館蔵

神田日勝最後の完成作。 一枚一枚の新聞紙がまるで本物のようで、だまし絵的な効果もあります。 遠近法を画面に持ち込むことがほとんどなかった従来の作品に比べ、わずかに奥へと向かう空間が感じられ、 見る者は中心に座る男の視線と向き合う格好になります。見ている者が見られている錯覚をおこし、異常な空間の中に迷い込んでゆきそうです。
現代社会に生きる人間の孤独や苦悩、そしてその存在の確かさを問う力作として、時代を経た今もなお、見る者に迫ってきます。

馬(絶筆)

「馬(絶筆)」

1970年 油彩・ベニヤ・鉛筆(183.3×204.0)

未完成作品としてアトリエに残されていた作品。 むき出しのベニヤに半身だけが描かれた馬。 後ろ足はかすかに鉛筆の輪郭があるだけです。 しかし、さまざまな画風の変遷の後に描かれたこの作品は、 画家自身が初期のモノクロームの世界に回帰し再出発をしようとしたようにも見えます。
描き残された馬の背景などから画家がどのようこの作品を仕上げようとしたのかを考えるとき空想が広がる作品です。

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